【コンテスト用シナリオ】君に捧ぐ神曲
第五話
〇太一の父親の黒いワンボックスカー。窓の外は晴天で青空が広がっている。地方のライブにはこの車に機材を積んで出かけている。
太一が運転手、助手席に涼。後ろに右から隆二、小花、柊音の順で座る。
涼は車内でもギターを抱えて弾いている。
その音楽に合わせて楽しそうに唄うみんな。
小花も嬉しくなって笑顔になる。
小花(みんな本当に優しいな……。昨日までの気持ちが嘘みたい……)
隆二が小花にペットボトルのお茶をくれる。
隆二「はい、どうぞ」
小花「ありがとうございます」
隆二「もう、元気出た? 小花ちゃんが泣いてたって聞いた時は驚いたよ」
小花はエヘヘと頭に手を当てる。
小花「ぼっちに戻りそうだったんですけど……引き上げてもらいました」
小花はそう言いながらチラッと柊音を見る。
柊音は窓の外に目線を向けたまま、そっと口元をひきあげている。
隆二「小花ちゃんは笑顔が一番だよ」
小花「ほ、本当ですか!? そんな事、言われたの初めてです……」
優しくほほ笑む隆二に、小花は頬を赤くする。
そのまま車内では、楽しそうに本の話をする隆二と小花。
柊音はチラッとその様子を見ると、すぐに目を逸らして、窓の外を見つめる。
〇海岸沿い。大きなパラソルを立てた敷地に、バーベキューセットが並んでいる。
みんなでバーベキューの準備をしていると、飲み物がないことに気がつく。
柊音「俺、そこのコンビニに買いだし行ってくるよ。小花も手伝ってくれる?」
小花「は、はい!」
隆二「俺も一緒に行く」
微妙な表情で立ち上がる三人。
三人で近くのコンビニに向かう。
〇道路沿いの少し寂れたコンビニ。平日昼間のため、お客はほとんどいない。
お酒を物色する柊音。
小花が横から顔を覗かせる。
小花「柊音さんはビールですか? 私も飲んでみようかな?」
柊音「だーめ! 小花は弱いんだから。太一と一緒にノンアルにしといて」
小花「えー、ちょっとくらい、いいじゃないですか!」
柊音「ダメだって」
柊音はそう言うと、手に取った桃の絵のノンアコールの缶を、小花の頭にポンとのせる。
小花が上目づかいで見上げると、柊音はそっと小花の耳元に顔を近づけた。
柊音「小花の酔った顔は、誰にも見せたくないから」
柊音はそう言うと、サッとカゴを持ってレジに並ぶ。
小花は真っ赤な顔をして、耳元を押さえた。
小花(見せたくないだなんて……柊音さん、どういうつもり?)
小花は柊音の背中をじっと見つめる。
小花(どうしよう……。柊音さんといると、心臓のドキドキが大きくなる……)
隆二が別の棚から、花火を持って現れる。
顔が真っ赤な小花の様子に、不思議そうな顔をする隆二。
隆二「どうかした?」
小花「い、いえ……。なんでもありません……」
小花「あ! 花火、いいですね」
取り繕ったような小花の顔をじっと見つめる隆二。
〇コンビニからの帰り道。国道のような大きな通り。真っ青な空は高く、白い雲がもくもくと浮いている。
小花は涼と太一を見つけると、駆け出して手をふる。
小花の後姿を見つめる柊音と隆二。
隆二「小花ちゃんって、素直で可愛いよね」
柊音「まぁね」
隆二「あのさ、柊音」
隆二は足を止めると、柊音の顔を真っすぐ見つめる。
隆二「はっきり聞くけど。柊音は小花ちゃんのこと、どう思ってるの?」
柊音「え……?」
柊音は驚いた顔をして隆二を見つめる。
しばらくして、隆二はふっと目を逸らす。
隆二「まぁ、柊音はいつも本音を言わないからね。でも、俺にとっては好都合ってことか」
柊音「隆二?」
隆二「俺は小花ちゃんのこと、気に入っているよ。だから積極的にアプローチさせてもらうから」
柊音は目を見開く。
隆二は涼し気な顔をすると、小花の方へと歩いていった。
戸惑ったように立ち尽くす柊音。
〇薄暗くなった夕方の海岸。波の音が響く。
バーベキューが終わり、みんなはそれぞれ花火を手に持つ。
積極的に小花の隣に来る隆二。
柊音は離れた所で、一人でしゃがみ込んで線香花火をしている。
小花は柊音の様子が気になるが、その場で隆二と花火に火をつける。
なんとなく片づけをしていた涼と太一が、飲み物の缶が余っていることに気がつく。
涼「これ飲み切ったほうがいいな」
太一「ほら、みんなで分けちゃって」
太一がみんなに缶を手渡し、小花の脇にも缶が置かれる。
お酒と知らずに小花ゴクリと飲む。味に驚く小花。
小花(え? これってお酒……?)
動揺した小花の手元が揺れて、サンダルから出た足先に火の粉が散ってしまう。
小花「きゃ! あちち……」
慌てたように飛び跳ねる小花。
みんなが振り返り、柊音がすぐに駆け付ける。
隆二が小花の花火を受け取りバケツに入れた。
小花「もう、ごめんなさい」
隆二「そそっかしいなぁ、小花ちゃんは」
てへへと照れる小花を見ていた柊音。
急に小花をお姫様抱っこすると、水道のある海の家へと駆けだした。
驚く隆二。柊音は構わずに小花を連れて行く。
小花「しゅ、柊音さん!? もう、大丈夫ですから……」
小花は顔を真っ赤にさせる。
柊音は小花の言葉には反応せず、そのまま小花を抱き上げた手にぐっと力を込める。
小花は柊音を見上げると、その胸元のTシャツをキュッと握った。
〇海の家の裏。小さな水道がある。パチャパチャと水の出る音。
小花は近くの石に腰かける。
柊音はしゃがみ込んで、小花の足からサンダルを脱がすと優しく水に当てる。
あまりの恥ずかしさに全身が真っ赤になる小花。
小花「しゅ、柊音さん……恥ずかしすぎます……」
柊音「だめ。ちゃんと冷やさないと。痕になったら困るでしょ?」
柊音の手がさわさわと動く。
極度の緊張とアルコールが相まって、小花はふらふらと体制を崩す。
柊音「危ない!」
慌てて手を伸ばした柊音に抱き止められる小花。
二人の顔が近づき、今にもキスしそうな態勢になる。
息を止める小花。
小花を抱きしめる柊音の手に、ぐっと力がこもる。
柊音「小花……」
小花の心臓は大音量でドキドキと叩き出す。
柊音が顔を傾け、さらに唇が近づく。
小花(ど、ど、ど、どうしたらいいの!?)
小花は今にも失神しそうに目を回す。
その時、柊音がぴたりと静止する。
柊音は小さく息を吐くと、こつんと小花のおでこに自分のおでこをぶつけた。
柊音「ごめん。いきなり、びっくりしたよね」
戸惑いながらうなずく小花。
柊音は顔を上げると、小花の目を真っすぐに見つめる。
柊音「俺、必ず作ってみせるから」
小花「え?」
柊音「小花の心を動かす神曲」
小花「柊音さん……?」
柊音「その時に、小花に俺の気持ちを言わせて欲しい」
小花(柊音さんの、気持ち……?)
柊音は真っすぐに小花を見つめている。
小花は真っ赤な頬をさらに赤くさせると、こくんとうなずいた。
太一が運転手、助手席に涼。後ろに右から隆二、小花、柊音の順で座る。
涼は車内でもギターを抱えて弾いている。
その音楽に合わせて楽しそうに唄うみんな。
小花も嬉しくなって笑顔になる。
小花(みんな本当に優しいな……。昨日までの気持ちが嘘みたい……)
隆二が小花にペットボトルのお茶をくれる。
隆二「はい、どうぞ」
小花「ありがとうございます」
隆二「もう、元気出た? 小花ちゃんが泣いてたって聞いた時は驚いたよ」
小花はエヘヘと頭に手を当てる。
小花「ぼっちに戻りそうだったんですけど……引き上げてもらいました」
小花はそう言いながらチラッと柊音を見る。
柊音は窓の外に目線を向けたまま、そっと口元をひきあげている。
隆二「小花ちゃんは笑顔が一番だよ」
小花「ほ、本当ですか!? そんな事、言われたの初めてです……」
優しくほほ笑む隆二に、小花は頬を赤くする。
そのまま車内では、楽しそうに本の話をする隆二と小花。
柊音はチラッとその様子を見ると、すぐに目を逸らして、窓の外を見つめる。
〇海岸沿い。大きなパラソルを立てた敷地に、バーベキューセットが並んでいる。
みんなでバーベキューの準備をしていると、飲み物がないことに気がつく。
柊音「俺、そこのコンビニに買いだし行ってくるよ。小花も手伝ってくれる?」
小花「は、はい!」
隆二「俺も一緒に行く」
微妙な表情で立ち上がる三人。
三人で近くのコンビニに向かう。
〇道路沿いの少し寂れたコンビニ。平日昼間のため、お客はほとんどいない。
お酒を物色する柊音。
小花が横から顔を覗かせる。
小花「柊音さんはビールですか? 私も飲んでみようかな?」
柊音「だーめ! 小花は弱いんだから。太一と一緒にノンアルにしといて」
小花「えー、ちょっとくらい、いいじゃないですか!」
柊音「ダメだって」
柊音はそう言うと、手に取った桃の絵のノンアコールの缶を、小花の頭にポンとのせる。
小花が上目づかいで見上げると、柊音はそっと小花の耳元に顔を近づけた。
柊音「小花の酔った顔は、誰にも見せたくないから」
柊音はそう言うと、サッとカゴを持ってレジに並ぶ。
小花は真っ赤な顔をして、耳元を押さえた。
小花(見せたくないだなんて……柊音さん、どういうつもり?)
小花は柊音の背中をじっと見つめる。
小花(どうしよう……。柊音さんといると、心臓のドキドキが大きくなる……)
隆二が別の棚から、花火を持って現れる。
顔が真っ赤な小花の様子に、不思議そうな顔をする隆二。
隆二「どうかした?」
小花「い、いえ……。なんでもありません……」
小花「あ! 花火、いいですね」
取り繕ったような小花の顔をじっと見つめる隆二。
〇コンビニからの帰り道。国道のような大きな通り。真っ青な空は高く、白い雲がもくもくと浮いている。
小花は涼と太一を見つけると、駆け出して手をふる。
小花の後姿を見つめる柊音と隆二。
隆二「小花ちゃんって、素直で可愛いよね」
柊音「まぁね」
隆二「あのさ、柊音」
隆二は足を止めると、柊音の顔を真っすぐ見つめる。
隆二「はっきり聞くけど。柊音は小花ちゃんのこと、どう思ってるの?」
柊音「え……?」
柊音は驚いた顔をして隆二を見つめる。
しばらくして、隆二はふっと目を逸らす。
隆二「まぁ、柊音はいつも本音を言わないからね。でも、俺にとっては好都合ってことか」
柊音「隆二?」
隆二「俺は小花ちゃんのこと、気に入っているよ。だから積極的にアプローチさせてもらうから」
柊音は目を見開く。
隆二は涼し気な顔をすると、小花の方へと歩いていった。
戸惑ったように立ち尽くす柊音。
〇薄暗くなった夕方の海岸。波の音が響く。
バーベキューが終わり、みんなはそれぞれ花火を手に持つ。
積極的に小花の隣に来る隆二。
柊音は離れた所で、一人でしゃがみ込んで線香花火をしている。
小花は柊音の様子が気になるが、その場で隆二と花火に火をつける。
なんとなく片づけをしていた涼と太一が、飲み物の缶が余っていることに気がつく。
涼「これ飲み切ったほうがいいな」
太一「ほら、みんなで分けちゃって」
太一がみんなに缶を手渡し、小花の脇にも缶が置かれる。
お酒と知らずに小花ゴクリと飲む。味に驚く小花。
小花(え? これってお酒……?)
動揺した小花の手元が揺れて、サンダルから出た足先に火の粉が散ってしまう。
小花「きゃ! あちち……」
慌てたように飛び跳ねる小花。
みんなが振り返り、柊音がすぐに駆け付ける。
隆二が小花の花火を受け取りバケツに入れた。
小花「もう、ごめんなさい」
隆二「そそっかしいなぁ、小花ちゃんは」
てへへと照れる小花を見ていた柊音。
急に小花をお姫様抱っこすると、水道のある海の家へと駆けだした。
驚く隆二。柊音は構わずに小花を連れて行く。
小花「しゅ、柊音さん!? もう、大丈夫ですから……」
小花は顔を真っ赤にさせる。
柊音は小花の言葉には反応せず、そのまま小花を抱き上げた手にぐっと力を込める。
小花は柊音を見上げると、その胸元のTシャツをキュッと握った。
〇海の家の裏。小さな水道がある。パチャパチャと水の出る音。
小花は近くの石に腰かける。
柊音はしゃがみ込んで、小花の足からサンダルを脱がすと優しく水に当てる。
あまりの恥ずかしさに全身が真っ赤になる小花。
小花「しゅ、柊音さん……恥ずかしすぎます……」
柊音「だめ。ちゃんと冷やさないと。痕になったら困るでしょ?」
柊音の手がさわさわと動く。
極度の緊張とアルコールが相まって、小花はふらふらと体制を崩す。
柊音「危ない!」
慌てて手を伸ばした柊音に抱き止められる小花。
二人の顔が近づき、今にもキスしそうな態勢になる。
息を止める小花。
小花を抱きしめる柊音の手に、ぐっと力がこもる。
柊音「小花……」
小花の心臓は大音量でドキドキと叩き出す。
柊音が顔を傾け、さらに唇が近づく。
小花(ど、ど、ど、どうしたらいいの!?)
小花は今にも失神しそうに目を回す。
その時、柊音がぴたりと静止する。
柊音は小さく息を吐くと、こつんと小花のおでこに自分のおでこをぶつけた。
柊音「ごめん。いきなり、びっくりしたよね」
戸惑いながらうなずく小花。
柊音は顔を上げると、小花の目を真っすぐに見つめる。
柊音「俺、必ず作ってみせるから」
小花「え?」
柊音「小花の心を動かす神曲」
小花「柊音さん……?」
柊音「その時に、小花に俺の気持ちを言わせて欲しい」
小花(柊音さんの、気持ち……?)
柊音は真っすぐに小花を見つめている。
小花は真っ赤な頬をさらに赤くさせると、こくんとうなずいた。


