【コンテスト用シナリオ】君に捧ぐ神曲
第四話
〇晴れた日の昼休み。小花のとっておきの芝生のスペース。緑が青々と風に揺れている。
小花はいつものように本を開く。
隣では柊音がギターを弾きながら曲を作っている。
そのメロディに耳を澄ましていると、他のメンバーもやって来る。
小花モノ『私だけのお気に入りの場所は、いつの間にかみんなのお気に入りの場所になった』
小花モノ『人と一緒にいることが、こんなに楽しいなんて知らなかった』
小花は顔を上げると、思い思いに過ごすみんなの様子を見る。
くすくすと笑いだす小花。
柊音「急にどうしたの?」
小花「いいえ、なんだか不思議だなって思って」
隆二「みんなでここに居ることが?」
小花「はい。私はいつも、ぼっちだったので」
柊音「今は俺たちがいるよ」
小花の隣に座っていた柊音が、ポンと小花の頭に手を置く。
頬を赤くする小花。チラッと見る隆二。
しばらくして雑誌を読んでいた涼が、慌てて顔を上げる。
涼「柊音! そういえば今日ってゼミじゃなかったっけ?」
柊音「やべ! そうだった。じゃあまた後で」
柊音・涼・太一は同じ理学部。
柊音は小花に手を上げると、走って芝生を出て行く。
残された小花と隆二は顔を見合わせるとぷっと吹き出して笑った。
隆二「小花ちゃんは西洋文学が好きなの?」
小花「そういう訳でもないんですけど、この本が好きで……」
小花「そういえば隆二さんも文学部ですよね」
隆二はにっこりとうなずくと、小花の本を覗き込む。
隆二「神曲かぁ。俺も読んだことあるなぁ」
小花「え! 本当ですか!?」
目を輝かせる小花。
チャイムが鳴り、二人も慌てて立ち上がる。
〇講義のある校舎へと向かう途中の歩道。いくつかある建物には、学生が出入りする様子が見える。
小花は隆二と一緒に芝生を出て歩き出す。
本の話をしながら歩く二人を、そっと影から見る女子学生たち。
隆二「じゃあ小花ちゃん、午後も頑張ってね」
小花「はい! 隆二さんも」
ぺこりと頭を下げて隆二と別れる小花。
小花が授業に向かおうと歩き出した時、誰かに呼び止められる。
振り返る小花。立っていたのは以前、柊音を追いかけていた女子学生たちだった。
腕を組んで立つ女子学生たちに、小花は戸惑ったようにうつむく。
小花を取り囲む女子学生。
女子学生1「最近、シュウの周りで色目使ってる子がいるって聞いたけど。あんただよね?」
女子学生2「リュウさんにも手、出すとかサイアク」
女子学生3「あんたみたいなのがウロチョロしたら、シュウの評判が落ちるじゃない!」
小花「そ、そんな……私はただ……」
女子学生1「ただ、何? 清純ぶっちゃってムカツク!」
女子学生の手が当たり、小花の手から本が滑り落ちる。
地面に落ちた本を慌てて取り上げようとする小花。
女子学生1「ちょっと聞いてんの?」
女子学生が小花の肩をグッと掴んだ時、落ちた本を踏みつける。
はっとする小花。
小花「やめて!」
小花は叫び声を上げると、女子学生の足元から本を取り上げる。
小花の声にビクッとする女子学生たち。
しゃがみ込んで本を抱きかかえる小花。
本の表紙にはヒールの後がついている。
女子学生1「た、タイミング悪く踏んじゃっただけじゃない。ごめんってば」
小花の目には涙がいっぱい溜まっている。
本を抱きかかえていた小花は、バッと立ち上がると、うつむいたまま走り出した。
小花(こんな私が少しでも“楽しい”なんて思ったから、罰が当たったんだ……)
小花(私が柊音さんの側にいたら迷惑がかかる。私は、ぼっちでいた方がいいんだ……)
本を抱えて泣きながら走る小花。
〇校舎と校舎の間。渡り廊下。ゼミ生が数名研究室に移動している。
柊音がふと横を向くと、小花がうつむいて走って行くのが見える。
小花のいつもと違う様子に、首を傾げる柊音。
柊音「悪い、先に行ってて」
柊音は涼と太一にそう告げると、慌てて小花を追って駆けだす。
〇大学の門を出た歩道。通行人が数名歩いている。
柊音は小花の後姿を見つける。
柊音「小花!」
柊音の声にビクッとして足を止める小花。
うつむいたままの小花の肩に、柊音がそっと手をかける。
柊音が覗き込むと、小花は涙でぐちゃぐちゃの顔を隠すように横を向く。
はっとする柊音。
柊音「小花、どうしたんだよ!」
柊音がグッと手に力を入れると、小花はそれを振りほどく。
小花は本を抱きしめると、うつむいたまま声を出す。
小花「私はやっぱり……ぼっちの方がいいんです……」
柊音「小花、何言って……」
小花「迷惑なんです! もう、私の世界に入ってこないで!」
小花は叫ぶと、柊音の手を振り切って走り出す。
柊音は傷ついた顔をしながら、ただその場に立ち尽くしていた。
〇その日の夕方。小花の部屋。アパートの二階。カーテンは閉じ、電気もついていない。
小花はベッドに突っ伏していた顔を、ゆっくりと上げる。
泣きながら眠ってしまっていたのか、カーテンの隙間からは夕焼けが覗いている。
小花はのそのそと身体を起こすと、机の上のスマートフォンをタップする。
画面には、柊音からの電話が数件入っていた。
小花(もう柊音さんには関わらない方がいいんだ)
小花(私なんかが側にいたら、迷惑がかかっちゃうもん……)
小花はスマートフォンの電源を切ると、そのまま再びベッドに倒れ込んだ。
〇次の日の朝。カーテンの隙間から差し込む朝日。
小花は何か物音が聞こえ目を覚ます。
不思議に思っていると、再び窓にコンという何かが当たる音が聞こえた。
小花「何の音?」
カーテンをそっと開けた小花は、ベランダを見てはっとする。
ベランダには何枚かのギターのピックが落ちている。
小花「え? なんでこんなものが?」
慌ててベランダに出る小花。
その途端、人の声が聞こえた気がして下の道路を見た小花は目を丸くする。
そこには一台のワンボックスカーが止まっており、柊音や他の三人が笑顔で手を振っていたのだ。
柊音「小花、おはよう。今からみんなでドライブでもどう?」
小花「昨日も言ったはずです……。私は、もう……」
柊音「何も気にする必要ないんだよ」
小花「柊音さん……?」
柊音「俺が小花と一緒にいたいんだから」
小花は手に持っていたピックをぎゅっと握り締めると、涙で潤んだ瞳を上げた。
〇小花のアパートの玄関。
支度をした小花が扉を開けると、外で柊音が待っていた。
柊音「女の子たちがさ、俺の所に謝りに来たんだ」
小花「え……」
柊音「小花に悪いことしたってわかってたみたい」
小花の脳裏に、昨日の女子学生の顔が浮かぶ。
柊音「だからね、小花は俺にとって大切な人だから、もう傷つけないでって言ったよ」
小花「柊音さん……(大切な人って、どういう意味だろう……?)」
柊音は小花の頭にポンと手を置くと、顔を覗き込ませる。
小花は顔を真っ赤にさせる。
柊音「全然連絡とれないからさぁ、ここまで押しかけちゃった」
柊音はくすりと笑う。
小花は手にいっぱいのピックを差し出した。
小花「元気づけようとしてくれたんですね」
柊音「まぁね。結構ピック飛ばすのコツいるんだよね」
小花「ちゃんとコツンってぶつかってました」
柊音「一応バンドマンだからね」
柊音「って、それは関係ないか」
おどける柊音。
二人は顔を見合わせるとくすくすと笑い合う。
柊音「じゃあ行こうか!」
小花「え?」
柊音「ドライブ行くんでしょ?」
小花「ほ、本気だったんですか!?」
柊音「当たり前じゃない! ほら、みんなが待ってる」
小花が階段から覗くと、隆二たちが窓から手を振っていた。
小花はパッと笑顔になると、柊音と一緒に階段を駆け降りた。
小花はいつものように本を開く。
隣では柊音がギターを弾きながら曲を作っている。
そのメロディに耳を澄ましていると、他のメンバーもやって来る。
小花モノ『私だけのお気に入りの場所は、いつの間にかみんなのお気に入りの場所になった』
小花モノ『人と一緒にいることが、こんなに楽しいなんて知らなかった』
小花は顔を上げると、思い思いに過ごすみんなの様子を見る。
くすくすと笑いだす小花。
柊音「急にどうしたの?」
小花「いいえ、なんだか不思議だなって思って」
隆二「みんなでここに居ることが?」
小花「はい。私はいつも、ぼっちだったので」
柊音「今は俺たちがいるよ」
小花の隣に座っていた柊音が、ポンと小花の頭に手を置く。
頬を赤くする小花。チラッと見る隆二。
しばらくして雑誌を読んでいた涼が、慌てて顔を上げる。
涼「柊音! そういえば今日ってゼミじゃなかったっけ?」
柊音「やべ! そうだった。じゃあまた後で」
柊音・涼・太一は同じ理学部。
柊音は小花に手を上げると、走って芝生を出て行く。
残された小花と隆二は顔を見合わせるとぷっと吹き出して笑った。
隆二「小花ちゃんは西洋文学が好きなの?」
小花「そういう訳でもないんですけど、この本が好きで……」
小花「そういえば隆二さんも文学部ですよね」
隆二はにっこりとうなずくと、小花の本を覗き込む。
隆二「神曲かぁ。俺も読んだことあるなぁ」
小花「え! 本当ですか!?」
目を輝かせる小花。
チャイムが鳴り、二人も慌てて立ち上がる。
〇講義のある校舎へと向かう途中の歩道。いくつかある建物には、学生が出入りする様子が見える。
小花は隆二と一緒に芝生を出て歩き出す。
本の話をしながら歩く二人を、そっと影から見る女子学生たち。
隆二「じゃあ小花ちゃん、午後も頑張ってね」
小花「はい! 隆二さんも」
ぺこりと頭を下げて隆二と別れる小花。
小花が授業に向かおうと歩き出した時、誰かに呼び止められる。
振り返る小花。立っていたのは以前、柊音を追いかけていた女子学生たちだった。
腕を組んで立つ女子学生たちに、小花は戸惑ったようにうつむく。
小花を取り囲む女子学生。
女子学生1「最近、シュウの周りで色目使ってる子がいるって聞いたけど。あんただよね?」
女子学生2「リュウさんにも手、出すとかサイアク」
女子学生3「あんたみたいなのがウロチョロしたら、シュウの評判が落ちるじゃない!」
小花「そ、そんな……私はただ……」
女子学生1「ただ、何? 清純ぶっちゃってムカツク!」
女子学生の手が当たり、小花の手から本が滑り落ちる。
地面に落ちた本を慌てて取り上げようとする小花。
女子学生1「ちょっと聞いてんの?」
女子学生が小花の肩をグッと掴んだ時、落ちた本を踏みつける。
はっとする小花。
小花「やめて!」
小花は叫び声を上げると、女子学生の足元から本を取り上げる。
小花の声にビクッとする女子学生たち。
しゃがみ込んで本を抱きかかえる小花。
本の表紙にはヒールの後がついている。
女子学生1「た、タイミング悪く踏んじゃっただけじゃない。ごめんってば」
小花の目には涙がいっぱい溜まっている。
本を抱きかかえていた小花は、バッと立ち上がると、うつむいたまま走り出した。
小花(こんな私が少しでも“楽しい”なんて思ったから、罰が当たったんだ……)
小花(私が柊音さんの側にいたら迷惑がかかる。私は、ぼっちでいた方がいいんだ……)
本を抱えて泣きながら走る小花。
〇校舎と校舎の間。渡り廊下。ゼミ生が数名研究室に移動している。
柊音がふと横を向くと、小花がうつむいて走って行くのが見える。
小花のいつもと違う様子に、首を傾げる柊音。
柊音「悪い、先に行ってて」
柊音は涼と太一にそう告げると、慌てて小花を追って駆けだす。
〇大学の門を出た歩道。通行人が数名歩いている。
柊音は小花の後姿を見つける。
柊音「小花!」
柊音の声にビクッとして足を止める小花。
うつむいたままの小花の肩に、柊音がそっと手をかける。
柊音が覗き込むと、小花は涙でぐちゃぐちゃの顔を隠すように横を向く。
はっとする柊音。
柊音「小花、どうしたんだよ!」
柊音がグッと手に力を入れると、小花はそれを振りほどく。
小花は本を抱きしめると、うつむいたまま声を出す。
小花「私はやっぱり……ぼっちの方がいいんです……」
柊音「小花、何言って……」
小花「迷惑なんです! もう、私の世界に入ってこないで!」
小花は叫ぶと、柊音の手を振り切って走り出す。
柊音は傷ついた顔をしながら、ただその場に立ち尽くしていた。
〇その日の夕方。小花の部屋。アパートの二階。カーテンは閉じ、電気もついていない。
小花はベッドに突っ伏していた顔を、ゆっくりと上げる。
泣きながら眠ってしまっていたのか、カーテンの隙間からは夕焼けが覗いている。
小花はのそのそと身体を起こすと、机の上のスマートフォンをタップする。
画面には、柊音からの電話が数件入っていた。
小花(もう柊音さんには関わらない方がいいんだ)
小花(私なんかが側にいたら、迷惑がかかっちゃうもん……)
小花はスマートフォンの電源を切ると、そのまま再びベッドに倒れ込んだ。
〇次の日の朝。カーテンの隙間から差し込む朝日。
小花は何か物音が聞こえ目を覚ます。
不思議に思っていると、再び窓にコンという何かが当たる音が聞こえた。
小花「何の音?」
カーテンをそっと開けた小花は、ベランダを見てはっとする。
ベランダには何枚かのギターのピックが落ちている。
小花「え? なんでこんなものが?」
慌ててベランダに出る小花。
その途端、人の声が聞こえた気がして下の道路を見た小花は目を丸くする。
そこには一台のワンボックスカーが止まっており、柊音や他の三人が笑顔で手を振っていたのだ。
柊音「小花、おはよう。今からみんなでドライブでもどう?」
小花「昨日も言ったはずです……。私は、もう……」
柊音「何も気にする必要ないんだよ」
小花「柊音さん……?」
柊音「俺が小花と一緒にいたいんだから」
小花は手に持っていたピックをぎゅっと握り締めると、涙で潤んだ瞳を上げた。
〇小花のアパートの玄関。
支度をした小花が扉を開けると、外で柊音が待っていた。
柊音「女の子たちがさ、俺の所に謝りに来たんだ」
小花「え……」
柊音「小花に悪いことしたってわかってたみたい」
小花の脳裏に、昨日の女子学生の顔が浮かぶ。
柊音「だからね、小花は俺にとって大切な人だから、もう傷つけないでって言ったよ」
小花「柊音さん……(大切な人って、どういう意味だろう……?)」
柊音は小花の頭にポンと手を置くと、顔を覗き込ませる。
小花は顔を真っ赤にさせる。
柊音「全然連絡とれないからさぁ、ここまで押しかけちゃった」
柊音はくすりと笑う。
小花は手にいっぱいのピックを差し出した。
小花「元気づけようとしてくれたんですね」
柊音「まぁね。結構ピック飛ばすのコツいるんだよね」
小花「ちゃんとコツンってぶつかってました」
柊音「一応バンドマンだからね」
柊音「って、それは関係ないか」
おどける柊音。
二人は顔を見合わせるとくすくすと笑い合う。
柊音「じゃあ行こうか!」
小花「え?」
柊音「ドライブ行くんでしょ?」
小花「ほ、本気だったんですか!?」
柊音「当たり前じゃない! ほら、みんなが待ってる」
小花が階段から覗くと、隆二たちが窓から手を振っていた。
小花はパッと笑顔になると、柊音と一緒に階段を駆け降りた。