サヨナラじゃない

〚着いた先は?〛

「さて、では向かいましょうか。って、千影様、顔が赤いですよ?人は病にかかりやすいと聞きますが、大丈夫ですか?」
アラレは近づけていた顔をぱっと離す。
私の顔は火照っていた。この様子をみて、普通は、「あ、コイツ俺に見惚れてたな」とか、わかるところだけど、アラレが恋愛面に疎くて助かった。
「だ、大丈夫!それよりも、向かうってどこへ?」
アラレは数秒、眉を下げて心配そうな顔をしていたけど、
直ぐに表情を変えて説明をした。
「新居ですよ。まっ、ただのボロアパートですが」
アラレはその新居とやらを貶したように笑う。
一方の私は、「新居……!」と、声を明るくした。
新居ってことは、あの前の何もない空っぽ悲しい"元"自分の家に、帰らなくて済むんだ。
そう考えると、胸の辺りがじんわりと温かくなってくる。
この感覚の名前を、私は知らない。
いや、知る必要もないと思う。
ーー今の私は、まだ。
そんな私の姿を見て、アラレは意味がわからないという顔をしたけれど、「面白い方だ」。そう言って笑った。
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