すべての花へそして君へ②
未だに視界は大雨洪水警報発令中。前髪から滴ってくる甘い甘い雨は、さすがに飲む気にはなれない。
「ベタベタします……。しょわしょわします……」
「ごめんごめん。取り敢えず俺のハンカチで拭いて? このまま飲みながら帰ろう。帰ったらすぐお風呂入るといいよ」
「酷いです……。ラムネが……。せっかくのラムネが……。もう三分の一もない……」
「え……。振ったことには怒ってないの?」
「貴重な体験でした!」
「そ、そう……」
拭いてもらいながら、わたしもハンカチを取り出してある程度拭いて。だいぶ炭酸の抜けたラムネに感動しながら、旅館へと歩いて帰ることにした。
「それで? 色男のお誘い断って何考えてたの?」
カシャッという音が、歩いている隣から尋常じゃないほど聞こえるんだけど……まあそれは置いておこう。
「さっき言ったじゃないですか。これからのこと」
「え? うん。世界平和でしょ?」
「え。そんな大々的なことになってるんですか? わたしのしたいこと」
「でも、できることならしたいんじゃない?」
「……まあそりゃ。平和が一番ですから」
でも、ふと考えた。別に、視野に入れてなかったわけではない。自分の本当の立場を考えたら、こんなことを考えている場合ではないと。
「さっきのじゃダメなの? とってもいい目標だと思うけど」
「ダメじゃないです。お二人にそう言ってもらえて自信がついたので、自分の中で大事に大事にしたい目標です」
「……そっか。それはよかった」
――じゃあなんで? と。彼の空気がそう言ってくるのがわかる。
「朝日向を継ぐことについて、まだきちんと両親や祖父と話をしてないなと思って」
別に、継いだからといって自分の目標自体が消えるわけではないし、そこでできることだってあるだろう。
「でも、逆にできることが狭まってくるよね」
「そうですが、わたしは跡を継ぐことに関して、嫌だと思ったことはありません。『え? 跡継ぐの? イイよ~』くらいのノリです」
「……うん。それは不味いと思うわ」
「ですよね。それもわかってます。だから、きちんと話をしないといけないなーって」
レンズ越しではない彼の瞳が、やっと真っ直ぐこちらを向いてくれる。……話してる間は、ずっとカシャカシャいってたけど。
「やりたいことがきちんと定まっていない今、いろんなことに挑戦したいって、そう思います」
「……うん。俺も、それがいいと思う」
「でも、定まっていないからこそ、範囲を狭めてくれるものがちょっとあると、安心してる自分もいます」
「それは……」