すべての花へそして君へ②

『あ゛あ゛ー。つっかれたー……』

『え……』


 車に乗り込むや否や、サラさんはシャツのボタンを三つぐらい外した挙げ句、首をポキポキと鳴らす。


『あれね。年寄りなんだから、もっと丁寧に扱って欲しいわよね』

『え……。ぜ、全然お若いですけど……』

『見た目はねー。頑張って頑張って頑張ってるんだけどー……最近、関節が痛いのよ』

『……ええっと。失礼なことを伺いますけれど。おいくつ、なんですか?』

『あ。アオイちゃん。女性にそう聞くのはダメなのよー』

『いや、見た目と発言があまりにも違いすぎて……』


 だって、コズエ先生と同い年に見えるくらい、彼女はまだまだ現役に仕事をしそうなほどだ。そして、シオンさんがべた惚れするのもわかるくらい、凜々しくて、男気溢れていて。……かっこ、よかった。


『あたし、コズエちゃんと一回り近く違うわよ?』

『えっ!? ほ、ほんとに言ってるんですか……?』

『ほんとほんとー。なにー? 魔女かと思ったー?』


 そんなこと思ってもいなかったのに、言われてみたらそう見えてしまうのはなんでだろうか。


『て、てっきり……その、敬語だったので』

『仕事上はね? 歴はあちらの方が上だから。ちゃんと使い分けないとダメね』


 ああ、そうか。そう言われてみれば、“私”から“あたし”に。“雨宮さん”から“コズエちゃん”に変わっている。


『アオイちゃん、よく考えてもみて? あたし一児の母親よ? あなたと同い年の』

『……あ』


 言われてみて納得。けれど、この美貌を保っているのは本当に素晴らしい。だって、あの写真を覚えていて、すぐに彼女だとわかったくらいなのだから。


『今度、アオイちゃんにもいろいろ教えてあげるわ? この美しさを保つ秘密。コズエちゃんも生徒なのよー』

『おお! そうなんですか。それはとっても楽しそうっ』


 パンッと両手を合わせて笑えば、なぜか運転席側から殺気のようなものが。


『何言ってるの、アオイちゃん。美を保つのに楽しさなんていらないのよ』

『え』

『それよりも笑ったら皺が増えるから気を付けておかないと。……あーまたヒアルロン酸打ちに行かなきゃ』

『……』


 今、【美への夢】が、突き付けられた【美への現実】によって消えかかった。……うし。聞かなかったことにしておこう。


『にしてもカナの奴、こんな上玉取り逃がすなんて。ほんとにタマ生えてんのかしらね』


 今の発言も、聞かなかったことにしておこう。さすが、元姐さんとだけで。……頭の片隅にしまっておこう。


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