すべての花へそして君へ②
「やれやれ。ついて行けねえわ」と、またため息を吐きながら立ち上がったツバサくんは、「じゃあね」と去って行こうとする。
「えっ、ツバサくん待って待って」
「訂正する余地なく、変態度は【アタシ<アンタ】で確定だから」
「いえいえ、それはそうなので訂正はもういいんだけど」
「せめて一回くらいはしなさいよ。ダメ元でも」
そんな彼に慌てて駆け寄って、親指の生存確認しようとしたらひょいっとその手を引かれてしまった。ムッとして見上げた彼の顔は、どうしてか困ったように眉根を寄せていて。
「俺のことはいいから」
「でも……」
「指なら平気だから。言ったろ? あいつ来るまででいいって」
「……わかった」
「ん。それじゃ」
「あ、待って! ……一個だけ」
「……何よ。さっさと言い――」
浴衣の袖を掴み、下から覗き込むように見上げる。
「……もう大丈夫?」
「――――……」
【ツバサくん。向こうのベンチ行かない?】
「……馬鹿ね」
ふっとそうこぼした彼は、人差し指で額を、そっと小突く。
「いいこと教えてあげるわ」
「え?」
その人差し指で「耳貸せ」と言われたので、耳を寄せると彼もすっと距離を縮めた。
「日向だけじゃねえよ。お前といることがいられることが原動力になってんのは」
そんな囁きと一緒に、頬に一つ。何かが触れて離れていく。…………え。
「つばっ、んむ」
「要は、もう超元気ってことよ」
ツンツン、ツンツン。
「あら、これつきたてのお餅よりも柔らかいんじゃないの? 食べちゃおうかしらね」と、人差し指でほっぺたを突きながらそんなことを言うツバサくんだったけれど。
「なに固まってんだよ。馬鹿じゃねえのお前」
楽しそうな顔をすっと鎮め、男の顔をしてわたしの後方へ睨むように言葉を飛ばす。
「今じゃねえのかよ。攻撃してくんの」
「祭り終わったら思う存分させてもらう。そいつに」
「わたしかい」
いやでも、完全に油断していたわたしが悪いです、はい。反省してます。
「これに懲りたら、寸止めなんてやめるこったな」
「……えっ。す、寸止め……?」
結局その問いには答えてくれないまま、ツバサくんはカランカランと下駄を鳴らして櫓の方へと歩いて行った。
「……ね、ねえヒナタくん。寸止めって――」
言いかけたところに頬を団扇でペチ、と叩かれた。ペチペチ、ペチペチと、無言でしてくるところを見るとやっぱり、これはかなり怒っているご様子。
「ご、ごめんヒナタくんっ」
「これからは気を付けてくださいね」
けれど、予想していたよりもやさしい声と一緒に、今度はふわふわとした何かがわたしの頬を擽った。
「……? ひな、んぶふっ」
何だろうかと思ったそれが、今度はわたしの息の根を止めに来る。ふさふさした毛が鼻に入って、くしゃみが……は、はっ――――