すべての花へそして君へ②

 ――でもきっと、そうじゃない。


「只単に、子どもだからだよ。君が」


 すっと低く声を出すと、視界の端で彼の手に力が入ったのが見える。


「でも、つばさクンはまだ大人な方だとおれは思うよ」

「ズバッと言っておいて今頃フォロー入れられても」

「君のお父さんよりは」

「………………」

「君のお母さんよりも」

「………………」

「一番大人っぽいだけど、たぶんひなクンよりも」

「……いやいや」

「正直九条家みんな子どもだと思うよおれは。一番ははるチャンじゃない?」

「……それは否定しねえ」


 別に、子どもなのが悪いって、責めてるわけじゃないんだ。二人のこと、応援してはいるけれど、彼女のいないところで君に、ずっと苦しんで欲しいわけじゃないから。


「言葉で言ったって、こういうのはきっとどうしようもできないと思うんだ、おれは」


 だからと。頭から外したお面を、そっと渡してあげる。


「今日は特別!」

「え。……いやべつにいらねえ」

「可愛い女の子が悲鳴上げて泣いてるっていうのに、ひーろーが放っておけるわけないでしょう?」

「……かわいい、おんなのこ……」


 折角今日は、女の子なんだから。
 だから、今日はいいんだよ。おれが、今日だけは君の代わりに許してあげるっ。


「……――――っ」


 クシャッと歪んだのを最後に、彼は勢いよく、貸したお面を顔に当てた。


「どっか痛いとこある?」


 すっと出てきた手を取って、彼のずっと悲鳴を上げていた親指(こころ)を、よくよく撫でてあげた。


「無理したらダメだよ? 上手に自分の心に嘘、ついてあげられるようにならなきゃ」


 早くよくなるといいねと。……早く大人になろうねと。こんなことしかできなくてごめんねと。
 心の中で何度も何度も唱えた。


< 294 / 519 >

この作品をシェア

pagetop