すべての花へそして君へ②
――でもきっと、そうじゃない。
「只単に、子どもだからだよ。君が」
すっと低く声を出すと、視界の端で彼の手に力が入ったのが見える。
「でも、つばさクンはまだ大人な方だとおれは思うよ」
「ズバッと言っておいて今頃フォロー入れられても」
「君のお父さんよりは」
「………………」
「君のお母さんよりも」
「………………」
「一番大人っぽいだけど、たぶんひなクンよりも」
「……いやいや」
「正直九条家みんな子どもだと思うよおれは。一番ははるチャンじゃない?」
「……それは否定しねえ」
別に、子どもなのが悪いって、責めてるわけじゃないんだ。二人のこと、応援してはいるけれど、彼女のいないところで君に、ずっと苦しんで欲しいわけじゃないから。
「言葉で言ったって、こういうのはきっとどうしようもできないと思うんだ、おれは」
だからと。頭から外したお面を、そっと渡してあげる。
「今日は特別!」
「え。……いやべつにいらねえ」
「可愛い女の子が悲鳴上げて泣いてるっていうのに、ひーろーが放っておけるわけないでしょう?」
「……かわいい、おんなのこ……」
折角今日は、女の子なんだから。
だから、今日はいいんだよ。おれが、今日だけは君の代わりに許してあげるっ。
「……――――っ」
クシャッと歪んだのを最後に、彼は勢いよく、貸したお面を顔に当てた。
「どっか痛いとこある?」
すっと出てきた手を取って、彼のずっと悲鳴を上げていた親指を、よくよく撫でてあげた。
「無理したらダメだよ? 上手に自分の心に嘘、ついてあげられるようにならなきゃ」
早くよくなるといいねと。……早く大人になろうねと。こんなことしかできなくてごめんねと。
心の中で何度も何度も唱えた。