すべての花へそして君へ②

「……っ、あ。あの……」


 先程まで頬を潰していたはずの手がいつの間にか外れていて、そこを包むように添えられていた。


「……え、えっと」


 その親指が、口の端を撫でる。


「…………」


 それも、“したい”の合図。

 ゆっくりと近付いてくる唇に。わたしもそっと瞳を閉じて、彼の浴衣の袖をきゅっと握った。


 ドンッ――……
 ドンッ――――……


 息がかかるほどの距離にいたわたしたちを驚かせたのは、今日一日の終わりを告げる、大きな打揚花火だった。


「「………………」」


 そして我に返る。こんな大勢いる場所で、何をやろうとしていたのかと。


「あっ、あの。ヒナタくん」

「戻ろう。祭り終わったら一旦集合だったよね」

「え? あ、う、うんっ」


 けれど、どうやら焦っていたのはわたし一人だったらしい。さすがですねヒナタくん。わたしにもその冷静さを分けてくれ。
 先を歩く彼の数歩後ろで、熱る頬をペチペチと叩いて冷ます。打揚花火があがっていなかったら、今頃どうなっていたことか。……想像したらまた頬が熱くなったので、慌てて団扇でバシバシ。


(……ふう)


 やっぱり、わたしがおかしいのか。いや、おかしいんだ、やっぱり。ふとした瞬間、無性に彼に触れたくてたまらなくなる。
 前を歩く彼は、今どんな表情をしているのだろうか。パタパタと団扇を扇いでいるのは、わたしと一緒の理由……だったりするんだろうか。


(……そうだったら、いいな)


 彼からもらった、クマのマペット。それをじっと見ていると、またさっきみたいに胸の奥が熱くなる。


(……君は、どう思う……?)


 ヒナタくんも、キスしたいって。思ってくれてたのかな。


「ちょっとそこの変態」


 ただクマさんと見つめ合っていただけだというのに、何という言い掛かりだ。誰だ、恋する乙女を変態だと呼ぶ輩は。


「口尖らせて、今にもそのクマとブチュッとしそうだった奴を、変態と言わずして何という」

「お、おう……。なんてこったい」


 慌てて唇を引っ込め、クマさんに赤くなった顔を隠してもらう。
 そして冷静になった今になって思う。なんてことをこのクマさんに聞いていたのだろうかと。返答もないのに、恥ずかしげもなく。ああ、恥ずかしい。わたしの存在が恥ずかしい……。


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