すべての花へそして君へ②
しばらくの間、ジュースに逃げてみたけど、それもすぐズズズと音が鳴り始める。どうやらここまでが限界みたいだ。って言ってもものの1分足らずだったろうけど。
ふうと小さくこぼし、仕方なくわたしは、新幹線で寝過ごしそうになったことや、プールでヒナタくんが可愛かったこと。ご飯が美味しくて、パンツの上に乗ったお肉が心配だったこと。跡形もなくなってしまった社や、思い出の向日葵畑で素敵な誕生日プレゼントをもらったこと。
ストローから口を離し、ゆっくりと沈黙を割ってそのときのことを話してあげた。
「そっか。本当に楽しかったんだね」
「え? ……わ、わかる?」
「うん! その顔見てたらわかっちゃうよおー」
「そ、そっか……」
なんだか照れくさくなって、慌てて二人の視線から逃げるように俯いてしまったけれど、プレゼントのお礼を改めて言おうと再び顔を上げたら、その先にはなぜか銀色の切っ先。
「なーんて言うとでも思ったか。天然で事が済まされたのは夏までだぞ、あっちゃん」
意味ありげに含み笑いをする女王様が、こちらにデザートフォークを向けていたのだ。
そ、そんな鋭利なもの人に向けちゃダメだよ……? ただでさえ様になってるんだから……。
「つまりはー、お布団でイチャイチャしたかどうかってことだよねえー」
ユズちゃんの胃袋はブラックホールみたいだねー。
わあすごーいと、その食べっぷりに拍手を送りたかったけれど、向けられたフォークよりも尖り始めた女王様のオーラが怖かったので、止む終えず断念。二人の視線で、体に穴が空きそうだ。
「あ、の。……えっと……」
クラシックの流れる店内では、小さく発した自分の音が、やけに大きく聞こえる。恥ずかしさで緊張で、速く脈打つ心臓の音でさえ、二人には聞こえてしまいそうだ。
しかし、こういうことは話題にするのさえ自分にはハードルが高いのです。二人がものすごい勇者に見える。覇者に見えます。そして、その時のことを思い出すだけで、わたしの体中は一大事なわけで……。
「ささ、さあーって、どうだったたたな……?」
「柚子! 今すぐあっちゃんを【嘘がつけない罪】で逮捕しなさい!」
「承知致しましたきさ警部! ついでに【あおいちゃんを可愛くしやがって、このやろう羨ましいぞ罪】でひなくんも逮捕するであります!」
と、叫びながら二人はなぜかスマホを構えた。……凄まじい連写音が怖い。
「ねえ、このあっちゃんとかすごい可愛いんだけど」
「あおいちゃんは、たとえゲロ吐いても可愛いよ!」
「こんな風にしたのがあのサディスティックバイオレンスとか……」
「おうおうっ。腹立っちゃうね! ムカついちゃうね! どうせならあたしが一番にペロリと平らげちゃいたかったね!」