すべての花へそして君へ②

 ――ガンッ!!


「「「えっ!?」」」


 けれど返ってきたのは、返事ではなく頭突き。
 ひーくんが思い切り顔を机にぶつけた。後ろからど突かれたかと思うくらいいきなり。結構強く。


「……ひ、ひーくん?! どうしたの!?」


 一瞬何が起こったのかわからなくて呆然としていたけれど、慌てて声をかける。さっきとは全然違う意味を。そしてかなり本気の心配を込めて。


「……なん、でも」

「無いって音じゃなかったからね!? おでこ割れちゃってない!?」

「おいおい。今度こそ完全に顔のパーツ本気で移動したんじゃないのか……?」

「そんな得意芸があったんなら、さっさとしてあおいさんに振られてこい」


 席を立ちながら毒吐くれんれんの素に、心の中で『まあまあ……』と宥めるおれと、『いいぞ! 言え言えー!』って応援しちゃうおれが混在していて苦笑い。なんだかんだでおれもまだまだだなあ。


「よくわからないが、取り敢えず氷をもらってくる」


 そうこうしていると、必死に心配しているちーちゃんを横目に、同じように小さく笑うれんれんと目が合う。彼もきっと今、おれとおんなじようなこと、思ってしまったのだろう。
 そんなことを思いながら「お願いね~」と、離れて行く背中に手を振っていると再び、ガガンッ!! と。ついさっき聞いた音が。……いや、恐らくそれ以上の音が。


「えっ。……ちょ、ちょっと……?!」


 今度はちーちゃんだ。揺すってもビクともしない。死んではないだろうけど……恐らくこれ、テーブルの上で気絶してる。彼まで一体どうしたというのだろう。


「……何勝手に見てんのさ」


 復活したらしい真っ赤なおでこのひーくんは、少々お間抜けだけど。どうやら、原因は彼のスマホにあるらしい。……チラッと覗いてみた。


「ひーくんってさあ~……」

「なに」


 澄ました顔して、それをズボンのポッケに入れる目の前の彼に、大きなため息がこぼれ落ちた。


「……なんでこんなにとことん苛つくツボついてくるんだろ……」

「ちょっと。独り言は独りの時に言ってよ」

「聞こえるように言ったんだもーん」

「……ねえ。本気でオレ、オウリになんかした……?」

「その、超絶可愛いあーちゃんの写真くれたら、今までのこと、許してあげてもいいよ?」

「絶対あげなーい」


 はあ。溺愛も甚だしい。
 それから、休憩が終わってしまったらしいれんれんは、氷だけ(追加でちーちゃんの分と鼻血用ティッシュも)持って来てくれてから、後ろ髪を引かれるようにそのままバイトに戻っていった。


「(結局何がどうしたんだ……?)」


 そんな疑問を頭に浮かべながら。


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