すべての花へそして君へ②

 嬉しそうに首を振る彼女は、上着こそ脱いでいるものの服や髪すら乱していなかった。縛られた男たちは手傷を負い、目を回しているのに。


「そうだと思うけど、念のため診察させてください。これ、職業病のようなものだから」


 一度断りを入れ、そっと彼女の手を取る。こんな細っこい腕のどこに、すごい力があるというのだろうか。正直言って、研究させて欲しいくらいだ。
 完全無傷に安心し一息をつこうとすると、縛られたスーツの奴らが逃げだそうとしているのが視界の端に映る。もちろんそれを、彼女が見逃すわけがなかった。


「さっきはあんなに威勢がよかったのに。とっとと尻尾巻いて逃げるのか卑怯者ども」


 地を這うような唸り声。自然と身が竦みそうになる。
 僕でさえこの状態だ。なら、この怒りの矛先向けられた彼らならもっと酷いはずだ。


「もし、これ以上友人の名を穢し、朝日向に刃向かおうというのなら。……もう二度と、日本の地面を踏めないようにします」


 そして彼女は、ダンッッ! と地面を強く踏み鳴らした。


「今のうちに、よくよく日本の土の味を噛み締めておけ。いいか、二度はない」


 彼女の逆鱗に触れてしまった男たちは、舌を巻くほどのスピードで丘を転がり落ちるように目の前から去っていった。


「あらあらまあまあ。大の大人がお漏らしするほど怖かったかしらねー」


 そうなってしまうくらいには、恐ろしかったのではないかと。
 深呼吸を数回繰り返して、通常の心拍数を取り戻す。……あー、怖かった。


「……今のは?」

「ん? あー、なんて言ったらいいか」


「まあ縁談相手? って言ったらいいのかな」と、隠すほどでもないのかあっさり教えてくれた。


「なんで、縁談相手の君に……」

「交渉の余地がないと思ったんだろう。力尽くで、ということはそういうことだ」


「まったく、舐められたもんだねえ……」一仕事を終え、やれやれと彼女は自分で自分の肩を揉んでいる。


「なんだか激しい縁談だね」

「ほんとにね。こっちは、話くらいなら聞くつもりでいたんだけど」


「話すどころか、一斉に飛びかかってくるんだもんね。ビックリして北斗百裂拳ができちゃったよ」あははと笑う彼女にアハハ……と返した顔は、だいぶ引き攣っていたと思う。


「朝日向葵様」


 そんな笑い合っている僕たちの間に割って入ってきたのは、またしてもスーツの男二人組。


「下がりなさい」


 彼女を守ろうと、彼らの前に立ち塞がろうとした。けれど、それを止めたのは他でもない、背中に庇った彼女だった。


「待ってタカト。彼らはわたしを守ろうとしてくれたんだ」

「彼らを庇う必要は」

「ほんとだよ! でも巻き添え食らったら危ないから、わたしが離れたところにいてくださいってお願いしたの」

「……え?」


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