すべての花へそして君へ②
✿
そこまで話した彼は、俺の手元からすっと抜いたカードにがっくりと肩を落とし、静かにカードを繰っている。
「事情を知る私たちの間では、君たちはそんな風に呼ばれていたんですよ」
――三つの百合の花に擬えて。
端からはそんな風に見られているのかと、嬉しい反面本当は荒んだ内部との差に少なからず落胆してしまう。今日もきっと、どこかで兄が苦悩しているのだろう。
「一度、父に聞いたことがあります。『お前はあの子の候補だ』と。それを聞いて、他の存在には想像がついていました」
繰られたカードに手を伸ばし、帰ってきた柄にひとつ息を吐く。……思えば、さっきからババしか動いてない。
「けれど、そのように呼ばれていたとは知りませんでした。恐らく父も知らないかと」
「そうかもしれないですね。これは、なかったことにされた私たちの家が、当て付けに言ってることが多かったので」
「けどまあ、これはまた今度。ゆっくり時間があるときにでも」そう言った彼は、「桜李くんの気遣いを台無しにしては駄目ですからね」と、改まって俺に話を振ろうとする。
「それで、話というのは他でもない――」
「そろそろ夕ご飯なので帰りますね」
「えっ?! も、もうちょっとは難しいですか……?」
「お菓子全部取られたので、今非常にお腹が空いているんです」
けれど俺は、新たに繰られたカードからスペードのエースを引き抜き、お茶菓子まで用意しようとした彼を静かに止めた。
「あなたは俺よりも、顔に出やすいタイプみたいだ」
そっとソファーから腰を上げ一礼すると、彼は少しだけ傷ついたような顔をする。
「そんな顔、する必要はないですよ」
「では」と、それだけを残して扉の方へと歩く俺に、彼は縋り付くような声でただ、俺の名前を呼んだ。
「あ、あの。皇くん」
「その言葉は受け取れません」
振り返ると、続く言葉が見つからないのか彼は少しばかり目を泳がせているように見えた。心中は察する。何せ『受け取れない』と言ったんだ。それを言うためにわざわざこんなことをした彼にとっては、不本意で仕方ないだろう。……けれど。
「きっと、彼女もそう思ってます」
けれどそれは、本当に受け取る必要のない言葉だ。だから彼女もきっと、あなたからも彼からも、その言葉は決して受け取らない。
「本当にあなた方に悪意があるのなら……あったのなら。きっと彼女は、どんなヒントでだってここへ来たでしょう」
いや。きっとヒントがなくったって、あいつならここに辿り着いていただろう。どんなことがあっても、何かしらの方法で。
「何もかもをわかっている。彼女は、そういう人だから」
だから彼女はここへは来なかった。今の俺と、同じことをきっと思っているから。
「もし、俺や彼女にあなたがどうしても謝りたいというなら……」
頑張って、上を向いてください。そして、笑っていてください。
「きっとあいつも、同じことを言うと思いますよ」
「それでは、今度は是非いろんな話を聞かせてください」そうして部屋の扉を開けた俺の背中に届いたのは――――
「……何もかもお見通し、でしたか」
なんだか、嬉しそうな声だった。
そこまで話した彼は、俺の手元からすっと抜いたカードにがっくりと肩を落とし、静かにカードを繰っている。
「事情を知る私たちの間では、君たちはそんな風に呼ばれていたんですよ」
――三つの百合の花に擬えて。
端からはそんな風に見られているのかと、嬉しい反面本当は荒んだ内部との差に少なからず落胆してしまう。今日もきっと、どこかで兄が苦悩しているのだろう。
「一度、父に聞いたことがあります。『お前はあの子の候補だ』と。それを聞いて、他の存在には想像がついていました」
繰られたカードに手を伸ばし、帰ってきた柄にひとつ息を吐く。……思えば、さっきからババしか動いてない。
「けれど、そのように呼ばれていたとは知りませんでした。恐らく父も知らないかと」
「そうかもしれないですね。これは、なかったことにされた私たちの家が、当て付けに言ってることが多かったので」
「けどまあ、これはまた今度。ゆっくり時間があるときにでも」そう言った彼は、「桜李くんの気遣いを台無しにしては駄目ですからね」と、改まって俺に話を振ろうとする。
「それで、話というのは他でもない――」
「そろそろ夕ご飯なので帰りますね」
「えっ?! も、もうちょっとは難しいですか……?」
「お菓子全部取られたので、今非常にお腹が空いているんです」
けれど俺は、新たに繰られたカードからスペードのエースを引き抜き、お茶菓子まで用意しようとした彼を静かに止めた。
「あなたは俺よりも、顔に出やすいタイプみたいだ」
そっとソファーから腰を上げ一礼すると、彼は少しだけ傷ついたような顔をする。
「そんな顔、する必要はないですよ」
「では」と、それだけを残して扉の方へと歩く俺に、彼は縋り付くような声でただ、俺の名前を呼んだ。
「あ、あの。皇くん」
「その言葉は受け取れません」
振り返ると、続く言葉が見つからないのか彼は少しばかり目を泳がせているように見えた。心中は察する。何せ『受け取れない』と言ったんだ。それを言うためにわざわざこんなことをした彼にとっては、不本意で仕方ないだろう。……けれど。
「きっと、彼女もそう思ってます」
けれどそれは、本当に受け取る必要のない言葉だ。だから彼女もきっと、あなたからも彼からも、その言葉は決して受け取らない。
「本当にあなた方に悪意があるのなら……あったのなら。きっと彼女は、どんなヒントでだってここへ来たでしょう」
いや。きっとヒントがなくったって、あいつならここに辿り着いていただろう。どんなことがあっても、何かしらの方法で。
「何もかもをわかっている。彼女は、そういう人だから」
だから彼女はここへは来なかった。今の俺と、同じことをきっと思っているから。
「もし、俺や彼女にあなたがどうしても謝りたいというなら……」
頑張って、上を向いてください。そして、笑っていてください。
「きっとあいつも、同じことを言うと思いますよ」
「それでは、今度は是非いろんな話を聞かせてください」そうして部屋の扉を開けた俺の背中に届いたのは――――
「……何もかもお見通し、でしたか」
なんだか、嬉しそうな声だった。