すべての花へそして君へ②
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 これでまた一つ、友達100人の道に一歩近付くことができたかと思うと、新たに加わった〈名前〉に、しばらくにやけ顔が止まらなかった。まだまだ道のりは長いけど。


「そんなに楽しかったのか、親睦会は」

「それはもう! 見て見て先生! 友達が増えたんですよ!」


 そうしてスマホの画面を運転中の彼に見せると、一瞬驚いた表情をしたものの、「そりゃよかった」と、嬉しそうな顔になる。

 あのあと高校の方に戻って待っていると、まさかのわたしを迎えはキク先生だったのだ。


『あー……だいぶ遅れたけど、家庭訪問すんぞー』


 ……え? 今から? このタイミングで??
 と、正直耳を疑ったけれど、首根っこを掴んだかと思うと、彼は放り投げるようにわたしを車に乗せた。


『あっ、葵さん……!』

『あ、タカト! ……は、今度さん付けで呼んだら、タカトゥ⤴︎って呼んじゃうからな』

『えっ』

『んじゃまたね!』

『ええっ!?』


 言い逃げになってしまったけれど、ひとまずそれだけ言えれば十分かな。
 また、話したいことがあれば会えばいい。連絡を取ればいい。だって、わたしたちはもっとラフな関係でいていいんだから。


「いっちょ前に浮気か」

「んなわけないでしょっ」


 道すがらそんな会話をしながら気付いたのは、行き先が花咲ではなく朝日向だということ。さすがに車で片道二時間は遠いもんね……。


「家庭訪問って何するんですか?」

「家庭を訪問する」

「そのまんまだし」

「読んで字の如く」


 いえいえ、そんな回答を求めているのではなく。もっとこう具体的な……『お宅のお子さんはー』とか、『今学期の成績の伸びがー』とか、そんな感じのが欲しいんですけど。


「それじゃ、まあ進路相談くらいしとくか」

「あ、先生見てー。あんなところにエンペラーペンギンが」

「いるわけねえだろ。どんだけ動揺してんだ」


 だって、まだ人に言えるほどきちんと固まってないんですもん。親にだって、まだ言えてないのに。
 車が信号待ちで止まると、彼は眼鏡の上から見たこともないくらい鋭い双眸で、わたしを睨むように見つめてくる。


「これからやりたいことはこれから決めりゃいい。オレが言ってるのは――」


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