すべての花へそして君へ②

 あの薬を彼らが服用していたのであれば、治る方法もないわけではない。それを越えるには、アズサさんの存在をきちんと理解しなければならない。彼も、そしてアザミさんも。エリカさんは父、カナタとの和解を。その大きな隙間を溝を薬で埋めていたのだから。
 ……けれど、はじめに使っていたものは本物だ。だから、それの治療法に関しては、専門家に任せるほかない。


「妹もな。ちょくちょく会いには行ってるみてえなんだ」

「ミヤコさん、ですか?」

「……そうか。さすがにもう知ってるか」


 乾家は家庭環境がそこまでよくなかったらしい。兄妹の仲は悪くはなかったみたいだけれど、お互い働き始めたら自然と疎遠になり。彼女が、自分の兄が『何か』をしているんじゃないかと思い始めたのは白木院がきっかけみたいだ。元婚約者のことで、父カナタと少し話したことがあるらしい。
 それで、何の気なしに調べたら……と。まあ、それもどうやらつい最近調べが付いたらしく、ヒナタくんが朝日向に来る数日前だったと。
 彼女と連絡を取っているカエデさんから、そう教えてもらった。


「ま。妹の方も、アオイちゃんに一言言いたいだろうから、いつか会ってやってくれな」

「はいっ。もちろんですよ」

「……出て、これっかな、あいつ」


 ……ぼそり。そう零れた彼の言葉に、返すことはできなかった。
 そうだったらいい。そうだったら、もちろん喜ばしいことだ。……けれど。


「重えよな。……やったことが」


 わたし自身は、秘書の乾さんも関係者だとは思っていたけれど、首謀者は完全に義父のアザミさんだと思っていた。だから、彼が何をしてしまったのかをきちんと知ったのは、ヒナタくんの話からだ。
 彼もそれを服用し、そして本当に人を消している。それが薬に狂わされた結果だとしても、その薬を使用していること自体が不味いことだ。
 出てこられたとしても、だいぶ先。出てこられればいい。面会も、きっと服用期間が長すぎるから、まだまだ会うことはできないだろう。

 信じて待とう。彼らがいつか、きっと出てこられると。彼らがいつか、打ち勝つことができるようになった、その時まで。
 そしてきちんと、話を聞いてみよう。自分たちにできることは、信じて待つだけ。


「……信じて待つ、か」

「アオイちゃん?」


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