すべての花へそして君へ②
暑さに溶けて落つ黄色
「あ。……カエデさん、すみません」
「あ? ああ。いいっていいって。 せっかくだからな。はしゃがねえと損だぞ」
「ははっ。そうですね!」
今度はアイスキャンデーを奢ってくれた。
「カエデさんは、その後どうですか?」
「俺か? 俺の話なんかよりも、あいつらともっと遊んでやれよ」
彼が指差す先は、わたしがいなくても十分楽しそうではしゃぎまくっている面々。
「えー。でも、カエデさんとこうやってラフに会話できるのって滅多にないですし」
「まあ俺も、シントのお守りっつって、全然そんなことしなくても大丈夫だろうから安心しきってるけどな」
「カエデさんの私服、とっても新鮮ですっ」
「は? いやまあ、普通のおっさんだろ」
「え。いやいや。お兄さんでまだ全然いけますって」
「やめてくれ。もう40近いんだ」
照れ隠しと受け取っておこう。
やっぱり執事服じゃないカエデさんを見られるのが新鮮で、短髪の髪にシャツとパンツのシンプルな組み合わせでも、十分お洒落に見える。
「今度、お家にお邪魔してもいいですか?」
「そんなの、もちろんいいに決まってるだろ」
わしゃわしゃと。大きな手が頭を撫でてくれる。……その手がとってもあったかかった。
本当に彼は、わたしと同い年の娘さんを持つお父さんには見えない。まあうちの父と同い年だけど。けど父の場合は、表では社長でも内面はまだまだ子ども。彼と比べでもしたら罰が当たりそうだ。だから、それはもうどうしようもないから放っておくことにしておく。
「……ほんと、“お父さん”ですね」
「まあ俺も、まさかアオイちゃんがカナタの子どもだとは思わなかったけどな」
そう言う彼の瞳は、やさしさの中に少しずつ、寂しさの色を混ぜ始めた。
「あれから面会は……」
「まだ、できてないんだ」
「そうですか……」
彼と父のもう一人の旧友、乾さん。きっと彼は、仕事の合間を縫って出向いているんだろうけれど……やっぱり、話すらさせてもらえてないみたいだ。
「カナタの方も、行ける日に行ってるみたいなんだけどな」
――やっぱりまだ、人には会わせられる状況じゃないらしいんだ。
そうしてまた彼は、瞳に寂しさの色を落とす。