誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「……ああ、今からビルの前に。うん、ちょっとだけ。……待ってるよ。」

通話を終えた彼は、私の方を見て、優しく笑った。

「ここで、待っててくれる?」

その声は穏やかで、けれど責任を背負うような強さを含んでいた。

私はうなずくしかなかった。

隼人さんはゆっくりと私の前から離れていった。

その背中に、私は小さく、けれど確かに願った。

――どうか、この恋が、真っ直ぐに進めますように。

しばらくして、川口さんがビルの前に現れた。

胸の前でバッグをきゅっと握りしめながら、落ち着かない様子で辺りを見渡している。

私は少し離れた柱の影から、二人の様子をじっと見つめていた。

「桐生部長……」

名前を呼ぶその声は、小さく震えていた。

期待と不安が入り混じったような、そんな声だった。
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