誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
川口さんは、俯いて涙を拭うと、最後に小さく微笑んだ。

「よかった。ちゃんと、報われてる人がいて。」

その笑顔は、少しだけ、誇り高く見えた。

そして彼女は、背筋を伸ばして去っていった。

――私の知らないところで、桐生部長を好きになって、そして傷ついて、前を向こうとしている誰かがいた。

私はその背中を見送りながら、静かに隼人さんの手を握った。

「私、幸せになりたいです。」

ぽつりとこぼした私の言葉に、隼人さんはすぐさま答えてくれた。

「幸せにするよ。」

その言葉は、やけに真っ直ぐで、嘘のない瞳だった。

私は小さく笑って、ふたりで歩き出した。

ほどなくして、目的のイタリアンレストランに到着した。

小さな灯りが揺れる、落ち着いた雰囲気のお店だった。

「いらっしゃいませ。」
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