誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
(……逃げられない。)

あの冷たさと甘さを使い分ける男。

女性の涙も、甘い誘いも、仕事も、全部“接待”にすり替える人。

そんな人に、「これは何の経費ですか?」なんて聞けるわけがない。

でも――やるしかない。

私はゆっくりと深呼吸をして、書類を握りしめた。


私はため息をひとつついてから、営業部のフロアへと足を踏み入れた。

こういうとき、足音ってやけに大きく響く気がする。

できることなら、誰にも気づかれずに済ませたかったけど——

「あれ、篠原さん?」
声をかけてきたのは一条さんだった。

いつもの柔らかい笑顔で私を見ている。

「俺、またなんかやらかしました?」

少しおどけた口調に、思わず力が抜けた。

「いえ、今回は一条さんではなくて……」
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