誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
そう言って私は、視線を少し横に向ける。

そこにいたのは、桐生部長。

デスクにもたれて、スマホを眺めながら足を組んでいる。

まるで部長というより、モデルか何かの撮影待ちにしか見えなかった。

「あの人は……手ごわいですよ。」

一条さんが、苦笑い混じりに耳打ちしてくる。

「ですよね……」

思わず同意してしまった。

「頑張ってください。」

その一言を残して、一条さんは自分の席へと戻っていった。

えっ、手伝ってくれるんじゃないんだ……。

心の中で小さく嘆きながら、私は桐生部長の元へと、一歩を踏み出した。

(この人に、ちゃんと“確認”なんて取れるのかな……)

緊張で指先が冷たくなっていた。
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