誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「桐生部長。」

名前を呼んだ瞬間、彼が顔を上げた。

その目と視線が真っ直ぐに私を捉えて、思わず心臓が跳ねた。

……どうして、目が合っただけでこんなに息苦しいんだろう。

「経理部の篠原紗英と言います。」

できるだけ落ち着いた声で名乗る。

「今回、経理部長から指示を頂いて——」

「なに、経費で落ちなかった?」

彼は軽い口調で言いながら、笑みを浮かべる。

「……はい。でも、それだけではありません。」

私は震える手で書類を差し出した。

視線を感じながら、彼の指先に触れないように意識する。

「ここでは詳しい説明ができませんので、会議室の方へ……」

彼は少し顎を上げて私を見つめ、ふっと笑った。

「はいはい。」

気の抜けたような返事だったけれど、立ち上がる動きは意外と素早い。
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