誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
そして、無言で私に手招きした。

その仕草にまた、心臓がドクンと鳴る。

まるで私が彼の“連れ”になったような錯覚に陥る。

違う、仕事なのに——なんでこんなに空気が違うの。

背筋を正して、私は会議室へと歩き出した。

その背後に、確かに彼の足音が続いていた。

私が会議室に入ると、桐生部長は無言のままドアを閉めた。

カチリと鳴る音が、やけに静かな空間に響く。

「それで?」

振り向いた彼の声は、低くて静か。なのにどこか挑むようだった。

私は椅子を引いて、彼の方に差し出した。

「謎の支出が、経理部で問題になっています。」

言いながら、表情が崩れないように自分に言い聞かせる。

部長はゆったりと椅子に腰を下ろし、足を組んだ。

「謎って……申請書には“接待”って書いてあるはずだが?」
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