誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「……あの日の夜。隼人、何て言ってたの?」

「キスされたけど、それ以上はなかったって……」

そう答えた瞬間、美羽さんの口元が少しだけ釣り上がった。

「へえ、そうなんだ?」

その言葉の温度が、じわじわと私の胸を締めつける。

彼女は、まるで何かを知っているかのように、お茶を一口飲んで続けた。

「キスして……その後のこと、何も“なかったこと”にしたんだ。」

言葉のひとつひとつが、鈍く心を抉る。

「……どういう意味ですか?」

私が問いかけると、美羽さんは無言で笑うだけだった。何も答えず、すべてを飲み込んだような笑顔。

その笑顔が、何よりも怖かった。

私の中で、忘れかけていた胸騒ぎが再び芽を吹き始める。

――隼人さん、本当に……キスだけ、だったんだよね?
< 248 / 291 >

この作品をシェア

pagetop