誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
そう言って微笑んだその顔が、あまりに優しくて、ドキリとした。

(この人……本気なの? それとも、また“からかい”の一環?)

分からない。でも、確実に私の心はまた揺れ始めていた。

桐生部長が去ったあと、斜め後ろの席から妙に熱い視線を感じた。

……案の定、上林さんだった。ニヤニヤが止まらない。

「いつの間に、そんな仲良くなったの?」

からかうような声に、私は思わず首をすくめる。

「別に……この前、残業手伝ってもらっただけですよ。」

できるだけ事務的に答えたつもりだったけど、口調が微妙に早口になっていた気がする。

「それでイタリアン?」

追い打ちをかけるように、さらに笑みを深める上林さん。

「……たまたまですって。」
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