誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
苦笑いしか返せない。

「でもさ、私、桐生部長にイタリアン誘われたことなんて一度もないよ?」

その言葉に、返す言葉が見つからなかった。

別に誘われたかったわけじゃない。

ただ、なんだろう、この――変な“特別扱い”。

上林さんの視線が、「認めたね?」とでも言いたげで、ますます気まずくなる。

(妙に“特別感”を与えられてるのって……なんで?)

思わず、自分の胸に問いかける。

私は、ただ経理部の一社員でしかないのに。

あの人の視線や言葉が、私の心をこんなにもかき乱してくる。


そしてまた、今月も月末の残業日がやってきた。

パソコンの前で伝票と格闘していると、背後から軽い足音が聞こえる。

「いたいた。」

その声に、もう驚かなくなっている自分がいた。
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