誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「俺がついてないと、ダメ?」

その言葉に、心臓が跳ね上がる。

冗談のようで、でも目は本気。

返す言葉が見つからなくて、私はただその顔を見つめ返すしかできなかった。

「嘘だよ。」

桐生部長はふっと笑って、スタスタと歩き始めた。

「紗英は、しっかりしてるから。俺がいなくても、大丈夫だもんな。」

その背中に向かって、私は小さく首を振った。

でも声のほうが先に出ていた。

「……そうでもないです。」

あっ、と自分でも思った。言うつもりじゃなかったのに。

口から滑り落ちたその言葉に、心臓がドクンと鳴る。

部長の足が止まり、ゆっくりと振り返る。

「行きましょう、イタリアン。」

そう言った私の声は、ほんの少し震えていたかもしれない。
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