誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「……ああ。」

優しい声が返ってくる。

でも、もうだめ。これ以上、後ろを歩いていたら顔を見られそうで。

(恥ずかしい。)

私はわざと早足になって、部長を追い越した。

できるだけ自然に。できるだけ、普通を装って。

なのに背中に向けられる視線が、痛いほど分かった。

この夜、少しずつ。

私は“ただの社員”ではなくなっていく気がしていた。

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