誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
思わず立ち止まり、私は慌ててカバンから財布を取り出そうとした。

けれど、その手をすっと遮るように、桐生部長の手が伸びてきた。

「女性が財布を出すことはないよ。」

優しくも強い声に、私は少しだけ目を見開いた。

「でも……」

「言ったろ。」

彼はグラスの縁に指を添えたまま、穏やかに言葉を続けた。

「女性の分まで払うくらい、稼いでるって。」

その言葉に、胸が軽くざわつく。

からかっているようで、どこか本気に聞こえてしまうのは、どうしてだろう。

私は財布をそっとカバンに戻して、小さく頭を下げた。

「……ご馳走様でした。美味しかったです。」

緊張を落ち着けるように、水を一口飲む。

そのときだった。

「また今度、会えないか。」

ふと落ち着いた声でそう言った彼の表情は、どこか真剣で。
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