誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
そう声をかけかけて、私は目を見開いた。

彼女の目の前に立っていたのは、あの男——桐生部長。

冷静な顔で、何かを言い返している。

「昨日の夜は、遊びだったんですか」

女性の震える声が、私の耳に届いた。

私はとっさに、ロビーの柱の陰に身を隠した。

見てはいけないものを見てしまった気がして、心臓が跳ねる。

「君だって、十分楽しんだだろ。」

桐生部長の低い声が、ロビーの壁越しに届く。

「私はっ……!」

女性の声が震えた。

「桐生部長が、好きで……」

涙声に、私は思わず息を止めた。

だけど、返ってきたのは予想外の冷たい一言だった。

「……そういうの、困るんだよね。」

刺すように無感情で、突き放す声音だった。

次の瞬間、女性はハッと顔を上げ、泣きながらどこかへ走っていった。

ヒールの音が遠ざかる。空気だけが、そこに残された。
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