誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
そう言った私に、部長はふっと微笑む。

「今日はありがとう。」

それだけ言って、部長は再びタクシーに乗り込もうとした。

「あの……」

思わず声が出た。止めたくて。もっと一緒にいたくて。

「魅力的なお誘いだが、また今度にしよう。」

淡々とした声。でも優しさがにじむ。

胸がチクリとした。

「私、何か……いけないこと、しましたか?」

気づけばそんな言葉がこぼれていた。

本気の気持ちが、少しだけ漏れてしまった気がする。

すると、部長はもう一度こちらに顔を向けて、私の耳元に囁いた。

「本当に欲しいものは、ゆっくり味わうタイプなんだ。」

耳元に落とされたその声は、甘くて深くて、確実に私の心に残った。

そして部長は、そのままタクシーのドアを閉め、夜の街へと去っていった。
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