誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
——まるで、あの人だけ時間の流れが違うみたい。

噂で聞いていた“軽薄なプレイボーイ”とは、全然違った。

優しくて、ずるくて……そして、ずっと深い。

その夜、私はなかなか眠れなかった。

あの言葉が、何度も耳の奥で繰り返されて——

「……ゆっくり、味わう……?」

私の恋は、たぶんもう始まっている。

そしてまた、平日が始まった。

パソコンに向かっていた私のデスクに、桐生部長が書類を持って現れる。

「この書類、ここでいいかな?」

私はすぐに立ち上がる。

「はい、大丈夫です。」

いつも通りのやり取り。

でも、ほんの少しだけ期待していた自分がいた。

また、何か誘ってくれるかもしれないって。

だけど部長は「ありがとう」とだけ言って、すぐにその場を離れていった。

——それだけ。
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