誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
あの日のイタリアン。

あのタクシーの中。

そして、囁かれた甘い言葉。

「本当に欲しいものは、ゆっくり味わうタイプなんだ。」

あれは、私への期待の言葉じゃなかったの?

それとも……やっぱり、あの夜だけの気まぐれ?

——私は、やっぱり“特別”なんかじゃなかった。

ただの地味な女。

一度試して、たいして面白くなかった。

そう思われたのだとしたら、もう顔を合わせるのも辛い。

キーボードに目を落としながら、ため息をついた。

「……バカみたい。」

期待なんか、しなければよかったのに。

「そういえば桐生部長、最近噂聞かないよね。」

上林さんが私の席にやってきて、そう言った。

「噂……ですか?」

「うん、ほら。泣いてる女性とか。前は頻繁に見かけたじゃない?ここ最近、まったく見ないのよ。不思議ね~。仕事が忙しいのかしら。」
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