誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
私は曖昧に笑ってごまかし、書類を抱えて営業部へ向かった。

足取りが少しだけ速くなる。

“噂がない”という言葉が、頭の中をぐるぐる回っていた。

もしそれが本当なら……部長は他の女性を誘っていない?

まさか、まさかね。

私なんかのせいで、あの桐生部長が“ノリ”を落とすわけがない。

営業部に着いたとき、私はその答えを目の当たりにする。

「最近、ノリ悪いですよ~部長」

と、美香さんが口を尖らせて言っていた。

「そうか?」

部長は軽く流していたけれど、私は思わず立ち止まってしまった。

「今日、どうですか?」

美香さんの甘い声が、少しだけ空気を揺らす。

私は思わず足を止めた。

すると——「遠慮するよ。」

部長の笑顔とその言葉に、心臓が跳ねた。

あの桐生部長が、女性の誘いを……断ってる?
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