誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
そんなはず、ない。

でも、でも。

「篠原さん?」

名前を呼ばれて顔を上げると、部長が私の元へまっすぐ歩いてきた。

美香さんの視線が痛いほど突き刺さる。

「書類。何か足りなかった?」

「いえ……」

かすれた声で返すと、部長はふっと微笑んだ。

「そっか。」

そして、少しだけ顔を近づけて囁く。

「今日、会う?」

息が止まった。

「……え?」

「何がいい?和食?洋食?」

思わず目が潤んでしまう。

からかわれているのか、それとも——

でも、私の中で答えはもう決まっていた。

「部長の行きたい場所に、連れて行ってください。」

私がそう答えると、部長は一瞬だけ笑って「OK.」と短く言い残して去っていった。

その背中を見送っていたら、一条さんが私の元にやってきた。
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