誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「泣くかどうか、試しますか?」

そう言った私の手から、桐生部長はふっと指を離した。

「今日は……やめておくよ。」

まただ。また私だけ、選ばれない。

喉の奥がきゅっと痛む。

「どうしてですか?」

問いかける声が震えていた。

自分でも分かってる。今の私は――少し、必死だ。

「ん?」

とぼけたような声に、少し苛立ってしまう。

「私が……地味だからですか?」

部長はグラスを持ち上げ、ハイボールを一口。

「紗英が、まだ俺に落ちてないから。」

――心臓が、跳ねた。

「落ちてなくても、他の女性は……」

そう言いかけた私を、部長の目が止めた。

「紗英は、他の女性と一緒じゃない。」

その声は低くて、真っ直ぐだった。

今までのどんな甘い言葉よりも、重たく、真剣で――。

胸の奥が、じんと熱くなる。

私のことを、ちゃんと見てくれている。

そう、感じてしまった。
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