誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
それだけで、心がまた揺れた。

――ダメだって思ってるのに。

――でも、今日だけは。

「じゃあ、また後で。」

私は静かに一礼し、自分のデスクに戻った。

誰にも悟られないように、いつも通りの顔で仕事をこなす。

でも、頭の中はずっと、夜のことばかり考えていた。

この下着に意味を持たせる。

この一夜で終わらせる。

そう何度も自分に言い聞かせていた。

夜。

定時を過ぎても、私は帰らなかった。

他の社員たちが帰るなか、私はそっと桐生部長のそばに近づく。

「行きましょうか。」

「……ああ。」

部長の横顔を見つめながら歩く帰り道は、いつもより静かだった。

タクシーに乗り込み、部長の住む高層マンションの前で降りた。

無言のまま部屋に入り、私は自分からヒールを脱いだ。

「……珈琲、いる?」

「いりません。」
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