誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
オフィスに着いた私は、迷わず部長の席へと向かった。

「部長。」

その声に、桐生部長がゆっくりと顔を上げる。

「……紗英。」

私の名前を、いつもより低く囁いたその声に、心がかすかに震える。

部長の目が、私の今日の決意を読み取ったのか、ふっと静かに目を細めた。

「少しだけ、お時間いいですか?」

まっすぐに見つめる私に、部長はゆっくりと頷いた。

「……ああ。」

あの瞬間、部長の瞳の奥に、何かが揺れた。

欲望とも、戸惑いとも、別れの予感ともつかない、複雑な色を秘めて。

「部長、今夜、時間ありますか?」

私の声は震えていた。けれど、視線だけは逸らさずにいた。

何気ない風を装っていたけれど、胸の奥は波立っていた。

「……あるよ。」

部長は一瞬だけ目を細めて、私の顔をじっと見つめた。
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