誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「じゃあ、篠原主任。」

「はい。」

ちょっと嫌な予感がした。

「彼女の教育係、お願いね。」

……やっぱり。まさか私に振るなんて。

「宜しくお願いします。」

「篠原です。」

名札を見せながら、なんとか笑顔を作った。

美羽さんはにこりと微笑んで、「早瀬です。よろしくお願いします」と頭を下げる。……この笑顔、ずるいくらいに綺麗だ。

案内された彼女の席は、まさかの私の隣。

午前中は、伝票の入力方法や社内申請書の扱い方を一通り教えた。彼女はメモを取りながら、真面目に話を聞いている。仕事はちゃんとできそう……でも、どうしても胸の奥がざわついてしまう。

そして——

「失礼します。」

その声に、私の指先が一瞬止まった。

見ると、桐生部長が申請書の束を手に、私たちのデスクに現れた。
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