誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「この伝票、こっちの部署に回すんだが……」

視線が一瞬、美羽さんに向けられる。

「……美羽。」

その小さな呟きに、空気が張り詰めた。

美羽さんは、ふわっとした表情のまま、少し首をかしげて答える。

「お久しぶりです、部長。」

……やっぱり、知ってるんだ。

一瞬、目が合った。桐生部長の瞳に浮かんだのは、驚き、戸惑い、そして——なぜか少しだけ、痛みのようなものだった。

私は、ただ黙って申請書を受け取った。何もなかったように。

けれど、心の奥では、何かがざわめき始めていた。

「……早瀬。どうして君がここに?」

「今日から経理部に配属になりました。」

桐生部長の声は、いつもの落ち着いたトーンだった。

でも、その一言に込められた微かな動揺を、私は聞き逃さなかった。

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