偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
第2話『すれ違う十五日の夜、仮面の皇帝』
その日、静月宮に柔らかな陽光が降り注いでいた。
庭に咲く芍薬が春風に揺れ、縁側に座る月鈴の黒髪が、ふわりとそれに応えるように舞う。
「紅玉。今日は昼餉に、瓜の湯引きと蓮の葉粥がいいな。台所で手伝うわ」
「えっ、またですか? ユー様、妃様なんですよ!」
紅玉の言葉に、月鈴はくすりと笑った。
「だって、退屈なんだもの。あの宮廷料理、脂っこくて……翠緑ではもっと素朴だったのよ」
「そう言いますけど……ユー様の手料理、実は私、楽しみなんです」
「ふふ、うれしいわ。なら今夜はもう一品、作っちゃおうかしら」