偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
そして、十五日。
静月宮に、またあの気配が訪れた。
月鈴は、少しだけ着物の色を変えた。
今日は白地に薄紅の花が舞う、春のような柄。
「……今日のそなたは、春の風のようだな」
仮面の皇帝は、初めてその姿に言葉をこぼした。
月鈴は驚いて顔を上げる。
「え……?」
「……何でもない」
すぐに視線をそらすが、その耳がわずかに赤らんでいた。
その夜は、ふたりの距離が、初めて一歩だけ近づいた。
仮面の下にある素顔のまなざし。
それが、月鈴に向けられたのは――ほんの一瞬でも、確かな想いだった。