偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
翌日。
宮中で働く若き文官・陸晴(りくせい)が、静月宮に花の使いを届けに来ていた。
「これは珍しい品種です。紫玉蓮というのですが……もしよろしければ、お庭にいかがでしょう」
「まぁ、こんなに濃い紫……。翠緑では見かけませんでした。ありがとうございます」
陸晴は、月鈴が異国から来たことを気にせず、優しい言葉をかけた。
月鈴もまた、文官特有の控えめな物腰に、微笑を返す。
だが、そのやり取りのすべては紫遥のもとへと、密かに報告されていた。
「……陸晴、か」