偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
そしてその夜、静月宮に人の気配がない時間を選び――紫遥は忍び込んでいた。
仮面も、皇帝の装束もない。ただの一人の男として。
「……あ」
月鈴が気づき、庭の縁側で立ち上がる。
「こ、こんばんは。えっと……あなたは……」
「先日、温室で会った」
「覚えていてくださったのですね」
紫遥は、黙ってうなずく。
「庭が……綺麗だと思った。よく、世話を?」
「はい。花が好きで……翠緑の庭の代わりです」
「そうか」
しばし、沈黙。
夜風が吹き、月鈴の髪が揺れる。