偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
「――触れても、いいか?」
「……え?」
不意に、紫遥の手が月鈴の頬へと伸びた。
あの夜、仮面の下で触れた場所。
今度は、仮面なしで。
男の素顔のまま。
「……冷たい。風のせいか?」
「……はい。でも……どこか懐かしい風です」
触れる手に、抵抗はなかった。
紫遥はそのまま、月鈴をじっと見つめた。
夜風の音だけが、ふたりのあいだに流れている。
(この手で、もっと触れたい)
(この唇で、名前を呼びたい)
(この女を、俺だけのものにしたい)
欲望が、紫遥の中で膨れ上がる音がした。