偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
咄嗟に、彼の手が月鈴の手を取っていた。
「っ……」
「……そなたを、見ている」
感情が、漏れた。
「誰よりも、見ている。香の好みも、字の癖も、庭に咲く花の位置も。……そなたの仕草のすべてを」
「……どうして……」
月鈴が言いかけたとき。
紫遥の手が、彼女の指をそっと握り締めた。
「私は――月鈴。おまえのことが、気になって仕方ない」
「…………」
それは、告白に近い響きを孕んでいた。
だが、月鈴は何も言えなかった。
ただ、握られた手の温かさに目を伏せることしかできなかった。