偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
その日を境に――紫遥は十五日を待たず、たびたび“素顔”で静月宮を訪れるようになった。
夜更けの庭で、縁側で、灯りの下で――
ふたりは、香を焚きながら話し、花の種を一緒に植え、音の鳴らない琴に指を添えて遊ぶ。
紫遥は自分の名を明かさず、“名乗らぬ人”としてそこにいた。
けれどその存在は、確実に月鈴の中に残っていった。
「ねえ。貴方はどうして、そんなに私を知っているの?」
ある夜、月鈴がぽつりと尋ねた。
「私の好きな菓子も、寝る前に読む書物の好みも……仮面の陛下よりも、知っている気がする」
紫遥は答えなかった。
ただ、その目に苦悩を滲ませた。