偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
仮面の皇帝――いや、皇帝の名を騙る“皇弟”紫遥(しよう)は、静かに静月宮を後にした。
その顔には、ふだん後宮の誰の前でも決して見せない複雑な表情が浮かんでいた。
数歩、歩いて立ち止まる。
目を伏せ、吐息をひとつ。
「……あの目は、まっすぐ過ぎる」
何も知らぬはずの少女の、怯えるでもなく媚びるでもなく、ただ真っすぐに向けられる瞳。
それが、紫遥にとっては一番厄介だった。
(なぜ、あんな目で俺を見る……)
己が“偽物”であることを、知っているのではと疑いたくなるような――。