偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
「やっぱり……」
ぽつりと漏れた呟きは、泣き声のようだった。
紫遥は黙っていた。
嘘を吐き続けたこと、信頼を裏切ったこと、そのすべてが罪だった。
「どうして……正体を隠してまで、私に……」
「最初は、ただ様子を見るつもりだった。……そなたが、誰かを欺く者ではないかと疑った。異国の姫であり、疎まれ、好奇の目に晒され……」
「……じゃあ、それが全部解けたから、優しくなったんですか?」
「違う……」
紫遥は、低く声を震わせた。
「違う。……俺は――いつの間にか、おまえに惹かれていた。妃としてでなく、国のためでもなく、ただの俺として」
その目には、もう嘘はなかった。
「……仮面をつけなければ、おまえに触れる資格がなかった。兄のふりをしなければ、この後宮で“そなたの隣”に座ることも叶わなかった」
「そんなの、理由になんて……」
「それでも、そばにいたかった」
紫遥の声は、まるで少年のようだった。
責任も、偽りも、すべてを背負って、それでもただ一人の女を求める、無様なほど真っ直ぐな想い。
月鈴の目から、涙がこぼれた。