偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー



 その夜、静月宮の灯りは遅くまで消えなかった。

 何もなかったわけではない。
 ただ、ふたりは手をつないだまま、寄り添い、言葉を交わし続けた。

 仮面が外れたことで、ようやく素直に笑い合えたこと。
 互いの温度を、ようやく素肌で知ることができたこと。

 それだけで、十分だった。

 そして――


「……次の十五日も、仮面をつけて来ますか?」


 月鈴の問いに、紫遥は少しだけ寂しそうに笑った。


「今は……まだ、それが必要かもしれない」

「じゃあ、私は……“二人のあなた”を、ちゃんと好きになれるように、努力しますね」

 紫遥の胸が、強く締めつけられた。

 愛されたかった。

 本当の自分として。
 偽りの仮面を捨てて。
 妃の心に、ただ“紫遥”という男として住みたかった。

 ――その願いは、もう、遠くない。




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