偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー

第3話『仮面を裂く時、愛は試される』




紫遥が仮面を脱いでから、まだ数日しか経っていない。
 けれど、静月宮の空気は明らかに変わっていた。

 以前のように月鈴が下働きをすることはなくなり、彼女のもとには他妃の女官が噂を嗅ぎつけるように来るようになっていた。



「十五妃様、最近は陛下と過ごされるお時間が長いそうですね?」

「花を届けた文官様ともご親しいとか……お好みの方が多いのですね」


 どれも笑みを湛えていたが、内実は鋭利な刃だ。

 月鈴は笑って受け流すしかなかった。
 そう――彼女はまだ、紫遥の“正体”を誰にも告げていない。


(陛下が……紫遥様が、本当に陛下でないと知れたら、後宮は混乱する)


 皇帝が病で伏せっていることを知るのは、限られたごく一部の側近だけ。

 紫遥が仮面を被って代役を務めているのも、月鈴が知る限り、“国を乱さないため”の決断だった。

 その秘密を、口にすることは――彼を、そして後宮を、裏切ることになる。



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