偽りの月妃は、皇帝陛下の寵愛を知りません。 ー月下の偽妃と秘密の蜜夜。ー
その夜、紫遥は再び静月宮を訪れた。
仮面を外して――ではなく、あえて“皇帝”の姿で。
月鈴はそれを見て、少しだけ表情を曇らせた。
「……今夜は、仮面なんですね」
「ああ。昼の顔で会えば、誰かに知られる恐れがある」
「でも……それはやっぱり、寂しいです」
紫遥は、少しだけ表情を緩めた。
「仮面でも、俺は俺だ。……おまえが見ているのが、俺だとわかっているなら」
そう言って、そっと彼女の手を取った。
「おまえのことを、奪いたいと思ってしまった」
「……奪う?」
「兄から、おまえを。――国から、おまえを。妃としてではなく、俺自身の女として」
その言葉は、甘さと同時に、危うさを孕んでいた。
けれど、月鈴は目を逸らさなかった。